インスリン太る?痩せる?問題
オゼンピックとかいう薬がアメリカで品薄らしい。もともと糖尿病の薬だが痩せ薬としても流通している。セマグルチドというのが正式名称で、最近では経口薬としてリベルサスという商品名でも広く知られている(オゼンピックもセマグルチドの商品名で注射薬だ)。セマグルチドは「GLP-1受容体作動薬」というくくりの薬である。GLP1は消化管ホルモンでGIPとともにインクレチンという名前で古くから知られている。インクレチンは膵臓のβ細胞にはたらきかけてインスリンを分泌させる。セマグルチドはGLP1の受容体に作用することでインスリンの正常な分泌を助ける。この薬の投与によってインスリンの分泌不全や抵抗性によってインスリンの作用が不足する2型糖尿病が改善されるというわけだ。糖尿病の薬には合成インスリンを直接投与したり、β細胞のATP依存性カリウムチャネルの遮断によりインスリン分泌を促すスルホニルウレア、またGLP1を分解し不活性化するDPP-4を阻害することでインスリン分泌を維持するDPP-4阻害薬などが知られているが、これらの薬よりも何かと使い勝手がいいのがGLP-1受容体作動薬、セマグルチドらしい。
ここまでがお勉強の話だが、ここで一つ疑問に思ったことがある。それはインスリンは痩せるのか、太るのかという単純な問いである。複雑な人体の仕組みを、太る痩せるという二元論で考えるのは非常にお粗末な議論だと思うが、単純に考えると矛盾していたりして、そういうのをスルーできない性格だから、どんどん深みにハマってしまった。そこでググったりして自分なりに整合性をとってみた。あくまでも以下に記すことは、自分なりの思考&ググるを繰り返した記録である。そのため現時点の理解でしかないので正しい保証はゼロです。後日、生理学の先生にも聞いてみようと思う。
1.まず思い浮かぶのが糖尿病患者というと太っているイメージがある。インスリンを作れないと太るということか。つまりインスリンは痩せるということか?
→そもそも太っている人が糖尿病になりやすいのであって、糖尿病になると太るわけではない。順番が逆である。太っている人は脂肪が多くて、脂肪がインスリンの働きを阻害するため糖尿病になる。逆に、糖尿病患者は急に痩せる人がいる。それはエネルギー源であるグルコースの正常な代謝(インスリンは解糖系を促し、糖新生を抑制する)が行われず体を傷つけながらおしっこに混じって出ていく反面で脂肪やタンパク質からエネルギーを取り出すから急に痩せるというわけだ。糖尿病患者はインスリンを増やすことで正常な代謝バランスを取り戻すことができる。すなわち太る痩せるアホバカ二元論においてはインスリンは太ると考えるのが妥当である。代謝の観点から言えばだが。
2.ではなぜセマグルチドは痩せ薬として有用なのか?
→たしかに1のインスリンは太るという理屈ではおかしい。(もっとも太るという表現は結果論で病的に痩せているのを正常なバランスを取り戻すことで元に戻したというだけだが、ここではインスリンは太るで通すことにする。)これは代謝という観点のみだけで見ているからだめなのである。インスリンには食欲を抑える効果があるので痩せるのである。なんと単純な話ではないか。そうだ、インスリンはお腹いっぱいのときに出るホルモンだ。満腹→インスリンという一方向ではなく満腹↔インスリンと考えればいいのだ。1の「糖尿病患者はインスリンを増やすことで正常な代謝バランスを取り戻すことができる。」だけでなく、おそらくそれ以上に食欲減退によって、痩せて脂肪を減らすことで、インスリンの作用を改善するのだろう。
そういえば、db/dbマウスとかいうマウスがいる。みんなデブデブマウスとかって呼んでいるけど、dbでdiabetesの略である。レプチンレセプター欠損モデルマウスなんだけど、こいつらも満腹感を得られないからデブになるんだよね。